1 施設の経緯及び概要 

 水質センターは、水源から構成団体の受水地点までの水質管理及び供給水の安全性確保のために必要な水質検査を行う施設として、牛頸浄水場内に設置され、昭和58(1983)年度から業務を開始し、翌年の59年度から構成団体の水質検査業務を受託しています。
 平成9(1997)年10月に、福岡県が策定した福岡地域広域的水道整備計画により、福岡都市圏の共同検査センターとして位置づけられて以降、広域的な水質管理を推進し、安全で良質な水の安定供給を図っています。
 当初は、試験室を浄水場管理本館内に設けていましたが、水質基準等の改正に伴う検査項目数や受託件数の増加、及び微量測定物質の増加に伴う検査の多様化・高度化に対応するため、平成13年度から2か年で浄水場敷地内に独立した水質センターを新たに建設し、平成14年11月から最新鋭の分析機器、最先端の設備を備えた試験室で業務を開始しました。

・所在地 :大野城市牛頸1丁目1-1(牛頸浄水場敷地内)
・延床面積:2,561㎡(3階建)
・竣工年月:平成14年11月

 

2 検査項目

 当センターでは水源から配水池までの水について、法令で定められた項目や水質管理上必要と判断した項目について検査を行っています。
 また、水質事故の発生等、水質異常が疑われるときは、臨時の水質検査を行い安全な水道用水の確保に努めています。

採水風景

 

3 独自の水質管理目標の設定

 当企業団の水質管理は、水源から構成団体の配水池に至るまで常に万全を期しており、供給水は、国が定めた水質基準を十分に満たしてきています。

 平成21(2009)年4月からは、さらに安全で良質な水道用水の供給を推進するため、国が定めた水質基準などより厳しい、独自の「福岡地区水道企業団水質管理目標」を設定し運用しています。

項  目  名

単位

国が定めた水質基準等

(給水栓)(※1)

企業団水質管理目標値

(供給水)(※2)

良質に関する項目

色      度

5以下

1未満

濁      度

2以下

1以下(※3)

0.1未満

pH

5.8以上8.6以下

7.5程度(※3)

7.5程度(7.4~7.8)

紫外線吸光度

0.080以下

(UV260nm、50mmセル)

ジェオスミン

mg/L

0.00001(10ng/L)以下

0.000005(5ng/L)以下

2-メチル

イソボルネオール

mg/L

0.00001(10ng/L)以下

0.000003(3ng/L)以下

安全に関する項目

遊離残留塩素

mg/L

0.1以上

0.1以上1.0以下(※3)

0.2~0.8

総トリハロメタン

mg/L

0.1以下

0.040以下

農  薬  類

(検出値と目標値の比の和)

1以下(※3)

0.1以下

※1 給水栓(水道の蛇口)における値

※2 用水供給地点(配水池等に供給する水)における目標値

※3 国が示した水質管理目標設定項目の目標値

 

4 水道GLP の認定

 公益社団法人日本水道協会は、水道水質検査機関等を対象として水質検査結果の精度(正確さ)と信頼性保証を確保するため、水道水質検査優良試験所規範(水道GLP-Good Laboratory Practice)の認定制度を平成17(2005)年8月から開始しました。
 当センターにおいては、平成18年度にGLP担当主査を配置し、7月に申請を行い、平成19年2月27日付けで認定を取得しました。以降、4年ごとの更新審査に合格し、GLP認定機関として現在に至っています。

 

5 受託検査の状況

 当センターにおいては、昭和59(1984)年度から、構成団体の自己水源や給水栓等の水質検査を受託し、福岡都市圏の共同検査センターとして、広域的な水質管理に貢献しています。
 構成団体の内、福岡市は独自の検査機関を有しており、受託検査をしていませんでしたが、平成24(2012)年の1年間、河川調査の目的でクリプトスポリジウム等の検査を受託しました。古賀市と宗像事務組合の受託検査は、経営方針の変更に伴い、それぞれ平成16年と平成23年に、民間検査機関に移行されました。
 山神水道企業団については構成団体ではありませんが、当企業団からの呼びかけにより、平成17年度から一部の検査について受託検査をしています。
 受託料金については、平成23年度に、水質管理の強化を目的として、検査項目のセット化を充実した改定を行いました。
 今後とも、構成団体管理の配水池や水源などの検査に必要な検査機器等を配置し、自己検査に加え受託検査を行うことで、より効率的な運用に努めていきます。

 

6 筑後川(取水口)の水質状況等

(1)筑後川(取水口)の水質状況等

 当センターにおいては、牛頸浄水場の水源である筑後川の水質調査を毎月1回行い、流域における水質汚濁の有無や浄水処理に関わる水質の状況を確認しています。様々な調査項目のうち、pH値、生物総数、BOD、SS、総トリハロメタン、かび臭物質についての昭和58(1983)年度の調査開始から40年間の水質状況の推移は以下のとおりです。 

 

ア pH値(水素イオン濃度指数)と生物総数

 pH値は、酸性やアルカリ性の強さを数値で表す尺度で、範囲は0~14となります。中性のpH値は7.0で、これより高い値はアルカリ性、低い値は酸性とされています。

 図1にpH値の年度別最高値、最低値、平均値の推移(昭和58年度~令和4年度)を示します。期間中の平均値は7.6ですが、ここ数年やや増加傾向にあります。また、最高値は9.0(平成16年4月、令和元年4月)であり、令和3年、4年4月においては8.8と、ここ数年最高値が高くなっています。直近10年を月別に見ると、春先の時期(3月、4月)に8.5を超えることが散見されます。筑後川では、春先(3月、4月頃)に生物(植物プランクトン)が増加する傾向があり、それに伴う炭酸同化作用によるものと考えられます。

 図2に生物総数の年度別最高値、最低値、平均値の推移(平成6年度~令和4年度)を示します。期間中いずれも増加傾向となっています。筑後川(取水口)で生物総数が増加する要因としては、生物が増加したダムからの放流水が筑後川に流入することによるもの、気象条件など様々なことが考えられます。期間中の平均値は3,200個/mLですが、平成17年度以降、平均値が5,000個/mLを超える年が散見され、多い年では6,800個/mL(平成28年度 グラフは対数表示)となりました。

 

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図1 pH値の年度別最高値、最低値、平均値の推移(昭和58年度~令和4年度)
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図2 生物総数の年度別最高値、最低値、平均値(平成6年度~令和4年度)

イ BOD(生物化学的酸素要求量)

 BODは、生物が水中の有機物を分解するために必要とする酸素の量を表し、河川の汚染が進むほど値が高くなります。また、生物総数の増加や少雨などの気象状況により値が高くなることもあります。
 図3にBODの年度別最高値、最低値、平均値の推移(昭和58年度~令和4年度)を示します。期間中、いずれも概ね横ばいで、平均値は1.4mg/L、最高値は6.5mg/L(平成6年7月)、最低値は0.3mg/L未満(昭和58年10月)となっています。
 平成6年は梅雨時期にあたる7月の日田の月間降水量が平年値の14%(44mm)であったため、河川水量が減少したことがBOD増加の要因と考えられます。ここ数年においても令和3年7月に5.2mg/Lと2番目に高い値となり、その要因として日田の月間降水量が6月は122.0mm、7月137.5mmと、2か月続けて少雨であったことが考えられます。

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図3 BODの年度別最高値、最低値、平均値の推移(昭和58年度~令和4年度)

 

ウ SS(浮遊物質量あるいは懸濁物質量)

 SSは、プランクトンなどの死骸やその分解物、またこれらに付着する微生物などの有機物、粘土粒子などの無機物からなります。SSの値が大きいほど水の透明度の低下や水中植物の光合成への影響などがあります。通常、河川水のSSは高くても数十mg/Lですが、濁度の影響を受けるため採水時に降雨の影響で河川水が濁っていた場合、高い値となります。一般的にSSは春から夏の豊水期に高く、冬の渇水期に低い季節変動を示します。
 図4にSSの年度別最高値、最低値、平均値の推移(昭和58年度~令和4年度)を示します。期間中の最高値は229mg/L(平成5年6月)、最低値は1mg/L(平成
23年12月、平成28年1月)、平均値は11mg/Lで、降雨による高濁度時を除くといずれも概ね横ばいとなっています。
 平成5年は日田の降水量が6、7、8月の3か月間で1,619mmと、平年値(842mm)の倍近い量であったことが、高い値となった要因と考えられます。
 降雨に伴い筑後川で高濁度となった場合、浄水処理では凝集剤の注入量を調整し適正な処理に努めますが、豪雨等により浄水処理が困難なレベルにまで濁度が増加した場合には、関係部署と協議し、筑後川からの取水量を減量し、その分を山口調整池からの取水で補い濁度を低下させた混合原水で浄水処理を行います。

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図4 SSの年度別最高値、最低値、平均値の推移

 

エ トリハロメタン生成能

 総トリハロメタン生成能とは、一定の条件で水がもつ総トリハロメタンの潜在的な生成量のことを言います。総トリハロメタン生成能は、夏季に高く、冬季に低い季節変動を示します。図5に総トリハロメタン生成能の年度別最高値、最低値、平均値の推移(昭和58年度~令和4年度)を示します。期間中の最高値は0.110mg/L(平成6年7月)、最低値は0.011mg/L(平成27年12月)、平均値は0.027mg/Lで、多少の増減はありますが、いずれも概ね横ばいとなっています。
 平成6年7月はBODも最高値でした。少雨で河川流量が減少し、生物総数は33,000個/mL、pH値は8.6まで増加しました。また、2番目に高い値である0.101mg/L(平成24年7月)は、濁度も217度と高かったことから、土壌中に含まれるフミン質等のトリハロメタンを生成しやすい有機物等が流出したものと考えられます。

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オ カビ臭物質(2-メチルイソボルネオール、ジェオスミン)

 カビ臭物質が浄水中に多く残留すると異臭味(カビ臭)の原因となるため、当企業団では独自に供給水の水質管理目標値を2-MIB(以下、「2-MIB」という。)は0.003μg/L以下、ジェオスミンを0.005μg/L以下として水質管理を行っています。植物プランクトンである藍藻類のなかにはカビ臭物質(2-MIB 、ジェオスミン)を産生するもの、放線菌のなかにはジェオスミンを産生するものがあり、筑後川の原水からこれらの物質が検出された場合、粉末活性炭を注入して取り除きます。図6に2-MIB、図7にジェオスミンの年度別最高値、最低値、平均値の推移(平成19年度~令和4年度)を示します。筑後川では2-MIBに比べてジェオスミンの検出頻度が高い傾向があります。期間中の最高値は2-MIBで0.007μg/L(令和6年7月)、ジェオスミンで0.004μg/L(平成23年4月、平成25年3月)、最低値は2-MIB、ジェオスミンともに0.001μg/L未満でした。

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図6 2-MIBの年度別最高値、最低値、平均値の推移(平成19年度~令和4年度)
  

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図7 ジェオスミンの年度別最高値、最低値、平均値の推移(平成19年度~令和4年度)

 


(2) 筑後川上流(日田)における気象状況

 図8に筑後川上流の日田における月間降水量の年度別最高値、最低値、平均値の推移(昭和58年度~令和4年度)を示します。期間中、いずれも概ね横ばいですが、直近の概ね10年間では平成24年7月(九州北部豪雨)、令和2年7月のように月1,000mmを超える降雨が見られる一方で、平成29年12月、令和元年5月、令和3年10月のように月間降水量が20mmにも至らない月があるなど、雨の降り方に二極化の傾向が見受けられます。期間中の最高値は1,034.5mm(令和2年7月)、最低値は0.5mm(平成10年12月)、平均値は159.0mmでした。

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図8 日田月間降水量の年度別最高値、最低値、平均値の推移(昭和58年度~令和4年度)

 図9に筑後川上流の日田における月平均気温の年度別最高値、最低値、平均値の推移(昭和58年度~令和4年度)を示します。月平均気温の年度別最低値は微増傾向、最高値、平均値は増加傾向にあります。直近10年でみると最低値は多くの年で4℃以上あり、令和元年度の最低値7.2℃は40年間の年度別最低値の中では最も高い温度となっています。月平均気温が29℃を超える月も平成30年8月、令和2年8月の2回見られており、月平均気温の年度平均値についても16.0℃以上となる年が多くみられるようになっています。

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図9 日田月平均気温の年度別最高値、最低値、平均値の推移(昭和58年度~令和4年度)

 

(3)水質事故対応事例

ア 油流出事故

 筑後川流域において油流出事故が発生した場合、当企業団が参加している「筑後川・矢部川水質汚濁対策連絡協議会」などから情報提供があります。受信した情報から取水への影響を判断し、関係機関から対応状況などの詳細な情報を収集、山口活性炭注入設備での活性炭注入の強化、独立行政法人水資源機構福岡導水事業所での取水の油分濃度計による監視強化、山口調整池への水源切り替え(取水による浄水処理への影響が大きい場合)、事故現場の調査及び河川水の採取・試験、浄水処理工程での水質監視(味・臭気)の強化などの対応を行います。

イ 原水高濁度  

 大雨などにより原水の濁度が上昇した場合、基本的には凝集剤(PAC)の増量により対応しますが、令和2(2020)年7月に大雨により筑後川取水口で濁度が1,000度を超過した時には、山口調整池からの全量取水に切り替えて浄水処理を行いました。
原水の濁度が大幅に増加した場合、浄水処理での水質監視を強化します。水質の変化に応じた適切な薬品注入による凝集沈殿処理の徹底、ろ過池での濁度管理の徹底、山口活性炭注入設備での活性炭注入強化による浄水での異臭味発生の防止、山口調整池の水質状況に応じた前塩素処理の停止、筑後川からの取水再開前に導水管内の滞留水で水質測定し、浄水処理への支障の有無を確認するなどを行います。

ウ 残留塩素濃度の低下(残塩低下事象)

 牛頸浄水場においては、令和元(2019)年4月に続き令和3年4月にも一部の送水先エリアで残留塩素濃度(以下、「残塩濃度」という。)が通常時より低下する事象が発生しました。
 当企業団では事象の原因として、「冬から春先にかけて濃縮槽内で汚泥が滞留し汚泥性状が不安定になっていたこと」「春先は筑後川原水の生物数が増加傾向にあり、原水中の有機物濃度が増加したこと」の2つの条件が重なり、汚泥の嫌気化が進行し、汚泥中で塩素消費物質の生成量が増え、これらが浄水処理工程に戻ることで残塩低下に至ったものと考えています。
 当企業団では再発防止と業務の効率化を図り、牛頸浄水場の維持管理の強化に取り組むため、早期に実施可能な対策として濃縮槽汚泥、筑後川原水などの監視強化の継続、濃縮槽での汚泥泥面高管理の徹底、構成団体との連携強化などを主な内容とする「牛頸浄水場における残塩低下事象再発防止対応マニュアル」を令和3年度に策定し、現在運用しています。マニュアルは、定期的に見直しを行い、より実効性を高めていきます。

 

濃縮槽の様子

7 山口調整池の水質改善対策

 福岡導水の漏水事故時等のバックアップ水源である山口調整池の水質改善対策について、独立行政法人水資源機構に対し、積極的に要望活動を行った結果、詳細な研究・検討を経て、平成23(2011)年度末に既存の曝気循環装置を強化した水質改善装置が設置されました。
同装置は、空気圧縮機の能力は従来同様とし、循環効率の向上を図るため、空気噴出方式を間欠式から連続式へ変更したもので、調整池表層で増殖する藻類を強制的な循環により太陽光の弱い下層へ効率的に運び、増殖を抑制するものです。また、同じ空気噴出方式で揚水筒式の循環装置が4基新設され、同時稼動可能な曝気循環装置は全部で5基に増強されました。なお、稼働期間は水温躍層が形成される、概ね4月末から10月末とされています。
平成24年度の稼働以降、夏場の水温躍層の形成は改善されましたが、曝気循環装置の効果的な運用については現在も検討中であることから、引き続き水質改善効果の確認を行っていきます。

【曝気循環装置イメージ図】