1 送水管漏水の状況
過去の送水管路の漏水事故は、鋼管腐食、ダクタイル鋳鉄管腐食、接続部離脱、特殊排気弁・空気弁等の不具合、他工事による破損等により起きています。大きな事故としては、平成3(1991)年8月と10月に粕屋町江辻地区で相次いで起こったφ1,100㎜ダクタイル鋳鉄管の土壌腐食による漏水で、いずれも復旧に5日間程度かかり、3構成団体に影響を与えました。
次に、平成17年3月に起きた福岡県西方沖地震の影響で通水前の海水淡水化センターからの導水管(φ800㎜ダクタイル鋳鉄管)が東区アイランドシティ内で管路が隆起しました。なお、このことによる漏水はありませんでした。
その後、平成22年8月に志免町志免地区でφ1,100㎜ダクタイル鋳鉄管が土壌腐食により漏水し、復旧は2日間程度でありましたが、5構成団体に影響を与えました。
平成30年12月に福岡市東区奈多の海の中道大橋に添架している多々良系導水管において、ずれが生じた可とう管(φ700㎜ステンレス管)で漏水が発見され、直後に導水を12日間停止して継手部を修繕しました。ずれが許容値を超えていたため、企業団の供給能力の低下に備えた自己水源の確保など構成団体等に協力を求めた上で、令和4(2022)年11月に導水を22日間停止して可とう管を取り替えました。
(1)漏水事故の状況
事故の種類別発生件数(下記表)では、腐食による漏水が19件で最も多く、その内、ダクタイル鋳鉄管の4件のうち3件は、昭和53(1978)年以前に布設した管路で腐食防止効果のあるポリエチレンスリーブで被覆されておらず、主に腐食性の高い土壌により管が腐食したものであり、残りの1件は継手部からの漏水で生じたサンドブラスト現象により管が損傷したものと推測されました。鋼管15件のうち8件は、埋設管及び場内配管において、地中等の管の周辺環境で発生した電位差により、管に電流が流れ腐食したものであり、6件は、水管橋部で風雨等の自然環境により外面防食塗装が劣化し腐食したものであり、残りの1件は埋戻時に管が損傷し腐食したものと推測されます。
事故の種類 | 導水管 | 送水管 | 計 | ||
幹線 | 枝線 | ||||
管の腐食による漏水 | - | 3 | 16 | 19 | |
内訳 | ダクタイル鋳鉄管 | - | 3 | 1 | 4 |
鋼管 | - | 0 | 15 | 15 | |
管の継ぎ手部からの漏水 | 1 | 1 | 4 | 6 | |
内訳 | ダクタイル鋳鉄管 | - | 1 | 4 | 5 |
鋼管 | 1 | - | - | 1 | |
付帯施設からの漏水 | - | 5 | 5 | 10 | |
地震等災害による破損 | 4 | - | 2 | 6 | |
他工事による破損 | 2 | 2 | 6 | 10 | |
計 | 7 | 11 | 33 | 51 |
※令和4年度末まで
(1)送水管路等の事故発生状況(構成団体に影響を与えた事例)
発生年月日 |
場所 |
口径 |
布設年度 |
原因 |
処置等 |
S59.7.21 |
福岡市南区柏原 |
1,350 |
S49 |
他工事による破損 |
翌日まで断水、影響1団体 |
S60.3.18 |
福岡市博多区立花寺等 |
1,200 |
S51 |
他工事による破損 |
5日間断水、影響7団体 |
S63.2.2 |
前原市笹山 |
250 |
S57 |
曲管の抜出し |
翌日まで断水、影響1団体 |
H1.6.5 |
前原市雷山川付近 |
400 |
S56 |
沈下による漏水 |
影響3団体 |
H2.6.20 |
志免町田富 |
400 |
S52 |
鋼管腐食による漏水 |
影響1団体 |
H2.6.28 |
志免町桜ヶ丘 |
350 |
S56 |
空気弁故障による漏水 |
影響1団体 |
H3.8.21 |
糟屋町江辻 |
1,100 |
S51 |
管体腐食による漏水 |
5日間断水、影響3団体 |
H3.9.27 |
志免町・宇美町 |
|
|
台風による停電 |
影響3団体 |
H3.10.18 |
糟屋町江辻 |
1,100 |
S51 |
管体腐食による漏水 |
断水1日、影響1団体 |
H15.7.19 |
宇美町河川 |
300 |
H12 |
豪雨により水管橋流失 |
翌日まで断水、影響1団体 |
H17.3.20 |
福岡市東区 |
800 |
H13 |
管路の隆起 |
復旧期間約1か月 (通水前) |
H22.8.30 |
志免町志免 |
1,100 |
S49 |
管体腐食による漏水 |
2日間断水、影響5団体 |
H25.8.17 |
古賀市小竹 |
300 |
H12 |
特排弁補修弁のフランジ部から漏水 |
半日断水、影響1団体 |
H27.1.10 |
太宰府市大佐野5丁目 |
450 |
H15 |
管体腐食による漏水 |
断水14時間、影響1団体 |
H30.8.21 |
大野城市牛頸 |
500 |
S54 |
可とう管本体腐食による漏水 |
断水10分、影響1団体 |
H30.12.6 |
福岡市東区奈多 |
700 |
H13 |
可とう管の継手部からの漏水と許容曲げ角度の超過 |
H30継手修繕:導水停止12日間 |
R4.1.24 |
福岡市博多区立花寺 |
350 |
S56 |
ストレーナー本体腐食による漏水 |
R4修繕:断水6時間、影響2団体 |
(3)大規模な事例
平成22(2010)年8月に漏水した下原系送水管の概要は以下のとおりです。
ア 漏水事故の状況
・発生日時:平成22年8月30日(月)17時10分頃
・発生場所:糟屋郡志免町大字志免918番地先(主要地方道福岡東環状線)
・埋設管 :φ1,100mmダクタイル鋳鉄管、昭和49年度布設、埋設深さ約1.5m
・漏水状況:道路表面に漏水が吹き出し、側溝へ流出
・被害状況:隣接地敷地が若干冠水したが、人的被害なし、物的被害1件
イ 復旧対応
・漏水箇所調査の結果、土壌に起因する送水管底部に生じた約15cmの孔によるものと判明
・復旧方法は管を切断せずに補修用機材のカバージョイントを用い、管の上から被せることにより修理を行いました。
ウ 漏水の原因
・この区間は、昭和53年以前に布設されており、管を防護するポリエチレンスリーブが非被覆の箇所であることから、土壌腐食が起こりやすい状況でした。
・ダクタイル鉄管協会に土壌分析と原因の特定を依頼し、調査の結果、採取土壌はレキ及びシルト岩であり、特にシルト岩は比抵抗値が非常に小さく、硫黄分や硫酸イオンを多く含んでおり、評価点も高く、強腐食性を示し、土壌腐食が原因であると推測されました。
エ その後の対応(※詳細は第6章施設耐震化等に記載)
・漏水事故や福岡県西方沖地震を踏まえ、既設管路について、既存資料の収集・整理や各種調査を実施し、管路整備計画に反映しました。
・資料の収集・整理等(埋設年度、漏水等事故履歴、活断層横断箇所の抽出等)
・各種調査(管体老朽度調査、周辺土壌腐食度調査、液状化調査等)
漏水事故位置図
漏水事故写真等
2 福岡導水での事故
(1)漏水事故【平成19(2007)年5月発生】
ア 概要
・発生日時:平成19年5月13日(日)午後2時頃
・発生場所:小郡市赤川地内(取水口から約3.5㎞地点、味坂水管橋直上流部)
・埋設管状況:鋼管 口径1,500mm 埋設深さ 約1.7m
・漏水状況:導水路本管(φ1,500mm)にある可とう管から漏水出水
・被害状況:破損箇所から約0.2㎥/s(推定)の漏水により小郡市道の陥没(約4m×約4m、深さ約1m)麦畑(4筆 5,000㎡)の冠水、人的被害はなし
・取水状況:事故発生後、筑後川からの取水停止、山口調整池から取水、応急復旧完了後、筑後川からの取水再開(平成19年5月20日(日)午後8時)
イ 応急復旧の概要
復旧にあたっては、漏水が可とう管ゴム部の破断箇所と鋼管部に生じた孔からであることから、可とう管全体の交換が必要となり、緊急時の対応として備蓄していた鋼管を加工して当面の応急対策としました。
漏水事故の復旧に要した8日間(5/13~5/20)については、筑後川からの送水を停止し、管内を空水にしました。この間は山口調整池から補給を行い、必要量を確保しました。
漏水箇所模式図(平面図、縦断図)
漏水事故原因のイメージ図
事故現場写真(陥没状況)
管底外面(破損状況)
ウ 福岡導水漏水事故対策検討委員会設置
平成19(2007)年5月に発生した漏水事故を受けて、水資源機構は事故に関する原因究明とその対策について検討を行い、その対策工法を決定することを目的に、学識経験者と利水者5名で構成する「福岡導水漏水事故対策検討委員会」を設置しました。
委員会は、この漏水事故を契機に、基幹施設として安定供給の確保に万全を期す必要があることから、事故の原因となった可とう管の破損の原因究明を行うとともに、事故時の対策や同施設の取替えの判断を適切に行うため、現地検討会と6回の委員会協議を精力的に行いました。事故原因を明らかにし、対応策をとりまとめ、平成20年5月に最終報告書を作成、6月に検討委員会から提言が行われました。
【福岡導水漏水事故対策検討委員会名簿】
区 分 |
氏名 |
所 属 |
学識経験者 |
(委員長) |
九州大学大学院工学研究院教授 |
安福 規之 |
九州大学大学院工学研究院准教授 |
|
関係団体 |
長嶺 浩 |
日本水道鋼管協会(技術専門委員) |
水道事業者 |
平尾 隆道 |
福岡地区水道企業団施設部長 |
本田 健一 |
佐賀東部水道企業団佐賀営業所長 |
エ 検討委員会の提言
① 福岡導水の重要性
福岡導水施設は、福岡都市圏と佐賀県基山町への水道用水の安定供給の観点から大きな役割を担うものであり、断水は社会的に深刻な影響をもたらすことを認識し、施設の健全性の確保に努めることが重要です。
② 漏水事故の原因
当初想定した地盤条件との相違や、施工による影響等から生じたと考えられる設計を上回る基礎地盤の沈下により、可とう管のゴム部に許容以上の変位が発生し、ゴムが大きなストレスを受けた状態にある中で、固形物を含む河川原水がゴム表面の劣化を促進させ、可とう管ゴム表面に微小クラックが発生しました。これが管内水圧により時間の経過とともに拡大し、ゴムが破断して高圧水が噴出し、それによりサンドエロージョン(サンドブラスト)現象が生じて、鋼管に穴が開き漏水事故が発生しました。
③ 可とう管取替えの必要性
破損して仮復旧の状況にある導水路区間は、早急に新たな可とう管に取替えが必要です。また、福岡導水路は、兵庫県南部地震を契機に改訂される以前の設計であり、地盤の沈下による変位量のみを考慮するにとどまっています。この大規模地震の経験により可とう管の耐震性能の重要性が改めて注目されてきたことから、耐震性についても検討を行い、必要な場合は取替える必要があります。
④ 施設機能の向上に向けた取組
施設の老朽化や代替困難な福岡導水施設の重要性等を考慮し、中長期的な視点での対策の検討も重要な課題であり、2号トンネルへの対応、施設全体の老朽化への抜本的な対策など、将来の施設の安全性・安定性の向上に向けて取り組む必要があります。また、緊急に実施すべき施策として可とう管取替えに加え、漏水事故による第三者被害軽減のための施設や機能回復期間短縮のための施設も必要です。さらに、施設の健全性の確保のため、定期的な点検調査を実施する必要があります。
※平成19年5月の漏水出水の際、事故後の導水管内の排水にかなりの時間を要したことから、福岡市所有の排水ポンプ車を借用し、排水時間の短縮を図り、復旧工事を早めました。
(2)漏水出水事故【平成22(2010)年8月発生】
ア 概要
・発生日時:平成22年8月15日(日)午後6時頃
・発生場所:小郡市赤川地内(取水口から約3.5㎞地点、味坂水管橋直上流部)
・埋設管状況:排泥管(鋼管)口径400mm 埋設深さ 約3m(口径1,500mm本管の付属施設)
・漏水状況:導水路本管(φ1,500mm)から排泥工へ分岐した位置にある可とう管(φ400㎜)から漏水出水
・被害状況:破損箇所から約0.3㎥/s(推定)の漏水出水により小郡市道の陥没(約5m×約5m)、水路下流の畑が若干冠水(約20㎡)したが、人的被害は無し
・取水状況:事故発生後、筑後川からの取水停止、山口調整池から取水及び海水淡水化施設の増量運転を実施、応急復旧完了後、筑後川からの取水再開(平成22年8月19日)
漏水出水部の損傷状況
イ 検討委員会の設置
平成22(2010)年8月15日に発生した漏水出水は、本管から排泥工バルブに向けた分岐管の可とう管で発生しました。平成19年の漏水出水では、可とう管の変位量が所期の許容範囲を超えていたのに対して、今回は可とう管の変位量が許容変位量の範囲内と想定される中で発生しました。
そこで福岡導水漏水出水対策検討委員会を開催し、今回の事故の特徴に着目し、可とう管の変位以外の要因について、物性試験等多角的な検討分析を行い、漏水出水の原因及びその対応策について検討を行いました。
【福岡導水漏水出水対策検討委員会名簿】
区分 |
氏名 |
所属 |
学識経験者 |
(委員長) |
九州大学名誉教授 |
安福 規之 |
九州大学大学院工学研究院教授 |
|
西村 伸 |
九州大学大学院工学研究院教授 |
|
関係団体 |
長嶺 浩 |
日本水道鋼管協会技術専門委員 |
水道事業者 |
平尾 隆道 |
福岡地区水道企業団技術専門員 |
赤司 定 |
佐賀東部水道企業団工務1課長 |
ウ 検討委員会報告
① 漏水出水の原因
漏水出水を起こした可とう管上側に、ひずみや上下流方向から圧縮力を受ける等、長期間の変位により、ゴム部がストレスを受けていました。さらに、可とう管ゴムは長期間の使用の間に変形を生じ、物理的なストレスとゴム表面近傍からの老化防止剤の減少及び微生物による天然ゴム成分の侵食も相まって、表面の硬度が規格値を超過し、ゴム表面に微小なクラックが発生しました。
また、管内が高水圧であることから、時間の経過によりクラックが進行及びゴムと鋼材の接着面の剥離が進行しました。さらに、鋼材や河川水に由来すると想定される金属害によるゴムの劣化も重なり、クラックが進行し、ゴムの破断に至り漏水が発生したものと考えられます。
② 今後の対応
今回の可とう管のように、ゴム表面が劣化している状態で大規模地震が発生した場合には、地震動や液状化による急激な地盤の変位に追従できないことによる破損が危惧されます。
また、ゴム表面にクラックの発生・進行により、他の可とう管においても安全性を損なうことが懸念されます。したがって、ゴム製の付帯可とう管についても本管と同様に地震対策として取替えを行うことにしています。