1 計画の趣旨と目的
福岡地区水道企業団(以下「当企業団」という。)は、福岡都市圏の6市6町1企業団1事務組合に一日最大約26万8千㎥の水道用水を供給しており、これは福岡都市圏の水道使用量の約4割に当たります。当企業団の水道用水供給は、福岡都市圏における必要不可欠なライフラインとなっており、大規模地震災害が発生したとしても、水道用水の供給を継続・早期に再開することは、当企業団の重要な社会的責務であると言えます。
大規模地震災害時においても水道用水の安定的な供給を行うため、当企業団においては、平成19(2007)年度に「福岡地区水道企業団耐震化整備計画」を、平成25年度には「福岡地区水道企業団管路整備計画」を策定し、施設の耐震化を進めています。現在、牛頸浄水場については耐震化が完了していますが、導・送水施設については、耐震化の完了までに長期間を要する見通しです。
また、福岡都市圏は、水道用水の約3分の1を筑後川に頼っており、その大部分は福岡導水により送水されています。平成30年度から「福岡導水施設地震対策事業」が行われていますが、この事業についても完了までには長期間を要する見通しです。
この様な現状を踏まえますと、大規模地震が発生した場合には、当企業団の施設・機能にも相当の被害が発生し、水道用水の供給が滞り、住民生活や都市活動に甚大な影響が生じることが想定されます。
したがって、大規模地震発生時の影響をできる限り低減するため、ハード対策の推進とともに、ソフト対策の充実強化が必要であり、その対策の一環として大規模地震の発生を想定した業務継続計画(Business Continuity Plan、以下、「BCP」という。)を令和4(2022)年3月に策定しました。
BCPは、大規模地震災害により、当企業団の施設や機能が被災した場合であっても、必要不可欠な業務を実施・継続するとともに、被災した機能を早期に復旧させることを目的としています。BCPに基づき、水道用水の供給レベル(サービスレベル)を向上させるための事前・事後双方の対策・施策を推進するとともに、非常時優先業務を特定し、不急の通常業務を計画的に休止することで、過度な業務量の増大を防ぎつつ、必要不可欠な非常時優先業務に最大限の人的・物的リソースを配分する計画としています。
BCPは策定して終わりとするものではなく、事前対策の推進や災害対応訓練実施を通して、課題を把握・確認するとともに、これを検証し、解決するための取組を進めるなど、PDCAサイクルにより、継続してブラッシュアップを図っていきます。
2 基本方針
大規模地震発生時においても、当企業団の社会的責務を職員が共有し、全うするため、以下に示す4つの基本方針に基づき、業務継続を図ります。
(1)発災時の業務の継続・早期復旧にあたっては、福岡都市圏の住民、職員、関係者の安全確保を第一優先とする。
(2)福岡都市圏の住民生活や経済活動のために必要となる当企業団が果たすべき重要な機能を優先的に回復するために、非常時優先業務の遂行に全力を挙げる。
(3)非常時優先業務に段階的な目標を設定し、手順や対応期限を明確にするとともに、目標の実現のため、必要な人員や資材の確保体制を構築し、必要とする業務に適切に配分する。
(4)大規模地震の発生に備え、平常時であっても業務継続力の向上のため、PDCA手法による計画の見直しや、訓練を実施する。
3 構成
BCPは、計画の方針や条件を示す第1~3章を前提として、第4~7章に示す4つの計画で構成しています。
第4章
非常時対応計画は、業務継続における目標を定め、非常時優先業務を抽出し、地震災害発生時の行動を明確化する。
第5章
事前対策計画は、現状の課題に基づき、災害対応の円滑化・迅速化等、業務継続力向上のために平時から実施すべき事前対策を体系的に示す。
第6章
教育・訓練計画は、職員の業務継続に関する意識や対応力の向上、組織内でのBCPの定着・習熟に向けた職員に対する教育・訓練メニューとその内容を整理する。
第7章
維持改善計画は、BCP全体のレベルアップを図るため、PDCA手法を用いた定期的な見直しなど、BCPの運用に向けたマネジメント体制と実施方針を整理する。
各計画を相互に関連させながら全体のレベルアップを図ることで、業務継続力・災害対応力の向上を目指しています。
【参考】福岡県西方沖地震の対応
(1)福岡県西方沖地震の概要
・発生日時:平成17(2005)年3月20日(日)10時53分頃
・震 央:福岡県西方沖 (北緯33.7°東経130.2°)
・震源深さ:約9km
・規 模:マグニチュード 7.0
・最大震度:震度6弱(福岡観測史上最大)福岡県福岡市東区・中央区・西区、前原市、佐賀県三養基郡みやき町
・最大加速度:276.5gal
・最大速度:57.1cm/s(観測地点:福岡市中央区天神5-1-23、標高2.60m)
・被害状況:死者1人、重軽傷者1,186人住宅の全壊144棟 半壊353棟 一部損壊9,338棟
震源に最も近い玄界島で特に被害が大きく、住民の大半が福岡市本土に全島避難
(2)被害と対応策
海水淡水化施設は、平成16(2004)年度当初より1年間かけて試運転を行い、平成17年4月1日から供用開始の予定でした。供用開始直前の3月20日に福岡県西方沖地震が発生しました。
地震発生後、職員はそれぞれ自宅や滞在先から企業団本庁舎へ駆けつけました。早急に災害対策本部を立ち上げ、直ちに調査班を編成し、牛頸浄水場、水質センター、海水淡水化施設、ポンプ場、導・送水管等の被害調査を行うとともに、構成団体への影響調査を実施しました。
調査の結果、土木及び建築施設については、幸いにも全体的に軽微な被害であり、特に沿岸部に位置する海水淡水化施設は耐震構造で建築していたため、プラント本体は天井や床の剥離、ひび割れ程度でした。しかし、管路施設については、生産水を海水淡水化施設から多々良混合施設へ導水する口径800㎜導水管がアイランドシティ内で高さ約1.1m、約40mにわたり隆起したため、そのまま使用するには問題がありました。その他には、空気弁からの漏水が5か所見つかりましたが、構成団体への送水に影響はありませんでした。
なお、アイランドシティ内の管路は、ダクタイル鋳鉄管を使用し、直線部は耐震継手のS形を、曲管部は離脱防止機能付きのKF形継手を採用しており、隆起部を含め漏水はありませんでした。隆起の原因は地震時の振動により、盛砂部が流動化し支持力を失い、管路が埋設されている道路脇の盛土荷重により滑り破壊が生じ、路面が隆起し埋設管路も隆起したものです。
空気弁の補修はまもなく完了しましたが、隆起した管は漏水もしておらず、そのまま使用することも検討されましたが、総合的に判断し被災前の埋設位置に復旧を行いました。当時は西日本地域が少雨傾向にあり、筑後川の流況が悪化、6月末には渇水対策本部も設置され、海淡施設の稼動は急務でした。漏水点検や再度の充水洗管作業を全路線において実施するとともに、多々良混合施設の試験調整や水質試験を行う等、企業団職員一丸となって全力で取り組みました。日数は要しましたが、6月1日に海水淡水化施設から多々良混合施設までの送水を、7月11日からは下原混合施設への送水を開始し、最終的に最大の50,000㎥/日送水を達成しました。
(3)地震対策検討委員会
福岡県西方沖地震を契機に、企業団関係施設が地震に強い用水供給システムの構築に向けて方向性を示すため、企業長の諮問機関として、学識経験者で構成する「福岡地区水道企業団地震対策検討委員会」を平成17(2005)年5月に設立しました。検討委員会は、施設の被害状況の把握、被害原因の推定と検証、震災後の対応及び今後の地震対策に関する検討を短期間で精力的に行い、10月に提言書が作成されました。
提言書の内容は、基幹施設の構造的耐震性の向上を図るとともに、用水供給システム全体として地震対策を具体的に進め、優先度に従って短期、中期及び長期に分けて推進するものとしました。
<地震対策の骨子>
① 短期的対策
・管路施設、付属設備、浄水場、ポンプ場等の耐震診断、耐震化実施計画の策定
・応急復旧体制の整備
・情報システムの構築のための検討
② 中期的対策
・管路施設、浄水場、ポンプ場等の耐震補強の実施
・用水供給システムとしての対応策の計画策定
③ 長期的対策
・用水供給システムとしてのバックアップ施設の検討
・情報システムの構築
【地震対策検討委員会名簿】
区 分 |
氏 名 |
所 属 |
学識経験者(委員長) |
神野 健二 |
九州大学大学院工学研究院教授 |
関係団体 |
石井 健睿 |
社団法人日本水道協会工務部長 |
水道事業者 |
三島 和男 |
阪神水道企業団建設部長 |
梅村 文雄 |
福岡市水道局理事 |
|
中島 公明 |
福岡県企画振興部水資源対策局長 |
|
平尾 実 |
福岡地区水道企業団理事 |
【委員会審議経過】
会場:福岡地区水道企業団
開催日 |
審議内容 |
第1回 平成17年 5月13日 |
・福岡県西方沖地震による被害状況 |
第2回 平成17年 7月12日 |
・福岡県西方沖地震の概要 ・兵庫県南部地震における水道施設被害及び対策 ・福岡地区水道企業団における地震対策検討の方向性 (海水淡水化センター等視察) |
第3回 平成17年 8月24日 |
・福岡地区水道企業団地震対策提言書(案) |